- comme l'ambre -

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あなたにとってのQOLとは? ―『ギフト 僕がきみに残せるもの / Gleason 』を見て―

 私は映画館で映画を見るのが好きだが、意外と、前売り券は買わなかったりする。なぜなら、前売り券を買った時に限って都合が悪くなってしまう、という苦い経験が多少なりともあるからだ。

 そんな私が久しぶりに、『ギフト 僕がきみに残せるもの*1の前売り券を購入した。

 『ギフト 僕がきみに残せるもの』は、ALS*2と宣告された、NFLの元選手スティーヴ・グリーソン(あのアイスバケツチャレンジの発起人!)のドキュメンタリー映画だ。

 いつもは購入しない前売り券を買う程までに、ALSに興味があるのか、と言えば、そういう訳でもない。

 かと言って、全く興味がない訳でもない。

 ヒラリー・スワンク主演の映画『サヨナラの代わりに*3』を見たり、漫画宇宙兄弟*4を読んだりして、ある程度はALSについて知ってもいたから、この映画が公開されると知った時、病と向き合うツライ姿を見ると分かり切っている映画をわざわざ見たくはないと思い、私は端から見に行くつもりなどなかったのだ。

 にも拘らず、私はこの映画の前売り券を買った。それは、なぜか。

 この映画の前売り券を買うだけで、その一部(100円)が「せりか基金*5」を通じてALS啓蒙活動資金等として活用されることを知ったからである。しかも値段は、他の前売り券と何ら変わりのない1500円だ。ただそれだけ。買う側としては、何かデメリットがある訳でもない(問題は上映期間内に、ちゃんとチケット使うってだけ!)。

 前売り券を買って、映画を映画館で見るだけで、ほんの少し何かの助けになれる、だなんて。そんなうまい話なら…、買わない手はないじゃないか。

 そんな訳で、私は『ギフト 僕がきみに残せるもの』を鑑賞してきたのだが。予想通り、内容はツラかった。『サヨナラの代わりに』でもう十分に分かったつもりでいたのだが、「リアルさ」のあった、あの映画でさえ、多少は美化されていたのかもしれないとさえ思った。今回のはドキュメントそのままだから、全てがリアルのまま、ありのままだ。一観客として、これ程までに辛い現状を受け入れるには、涙なしには見ることは出来なかった。

 今の世の中、例え身近にALSの患者はいなくても、日常生活で介護を必要とする患者が身内にいる人は、とても多いだろう。そういう人達、つまり介助する立場の人間にとっても、この映画は、励みになり、また非常に参考になるドキュメントだと感じた。

 スティーブと妻ミシェルが介助を巡ってちょっとした口論になるシーンや、スティーブの父が(息子が死ぬかもしれないという)不安や恐怖から行き過ぎた行動に出てしまうシーン等…。自分に置き換えてみると、思い当たる節のある人も多いのではないだろうか。

 ありのままの介助生活を私達に公開してくれるこの映画は、ALSに対する知見を広めるに留まらず、あらゆる人にとっての生きる助けとなる作品だ。患者や家族は病とどう立ち向い、そして、どう寄り添えばいいのか。納得した生き方、死に方とは、一体何なのか。後悔のしない介護、介助の仕方はあるのか。各人が医療費をどこまで負担していくのか、…等々。様々なセンシティブな問題についての、グリーソン一家なりの正直な考え方、取り組み方を一つのサンプルとして、披瀝してくれるからである。ここまでの極めて個人的な問題(実は、社会問題であるのだが)は、いざ自分が当事者になった時、一番知りたい問題でありながらも、実際は、友人間や親類間であってもなかなか話すことの出来ない領域だ。それをこの映画は惜しげもなく映像で見せてくれる。これは、とても貴重なことだと私は思うのだ。

 もし今、自分自身も含め、周りも健康な人ばかりで、自分には関係ないと思う人でも、ほんのちょっとだけ興味を向けて、この映画を見てみると、人生への考え方が幾分か変わるかもしれない、そんな可能性を秘めた映画だ。

 ALSだけでなく、世の中には想像以上に日々病と付き合いながら生きている人が沢山いる。頭の片隅に少しだけ、そうしたことを意識しておくだけでも、あらゆる人にとって社会は今までよりも生き易くなる、と私は信じたい。そして、ALS始め、まだ解明されていない病気の治療法が確立して欲しいと思って止まない。

 全ての人が自分の望む形のQOLを追求できる社会であって欲しい、そう願うばかりだ。


映画『ギフト 僕がきみに残せるもの』予告編

*1:2016年、原題はGleason Gleason [DVD] [Import]

*2:筋萎縮性側索硬化症のこと。

*3:2014年、原題はYou're Not You

*4:宇宙兄弟』では、南波六太宇宙飛行士や伊藤せりか宇宙飛行士が、宇宙でALSの解明に向けて日々研究を重ねるエピソードが描かれる。

*5:ALSの治療法を見つける為の研究開発費を集める『宇宙兄弟』ALSプロジェクトのこと。