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"I'm going Hollywood." ―『カフェ・ソサエティ / Café Society 』を見て―

 2020年に、再び東京でオリンピックが開催されることが決定して以来、ニュース等で頻繁に「レガシー」という言葉が飛び交うようになった気がするが、海外ドラマ好きの私にとって「レガシー」と聞いて真っ先に連想するのは、オリンピック関連施設のことよりも、「エンパイア」という言葉だ。そう、それは、私が今、「エンパイアはレガシーだ」、「これこそがエンパイアのレガシーになる」等々…、何かと「レガシー」という言葉に絡んだ印象的な台詞が登場する海外ドラマ『Empire 成功の代償*1にド嵌りしているからなのである。

 音楽業界を舞台にした、この物語は、ストリートから成り上がったカリスマ、ルシウス・ライオン*2が創業したエンパイアレコードの経営権を巡る家族間の激しい争いが見物のドラマで、エピソード毎に音楽の才能豊かなキャスト達によって披露される本格的なパフォーマンスも素晴らしい作品だ。更に、ゲストアーティストとして、アリシア・キーズマライア・キャリー等が登場する回もあったりと、キャストの豪華さの面でも見応えがあるドラマなのだ。そんな訳で、私は、レガシーと聞いたら直ぐにエンパイアと連想してしまう程、すっかりEmpireの世界に嵌ってしまっている。「今、一番のおススメの海外ドラマは?」と尋ねられたなら、私なら絶対『Empire 成功の代償』を一番に推したいと思う。

 けれど、もしも、「ここ10年間で、一番のおススメの海外ドラマは?」と聞かれたなら、答えは全く違ってくる。今、嵌っている『Empire 成功の代償』以上に、もっと嵌っていた海外ドラマが確実にあったからだ。

 ここ10年の間に製作された作品に限って選ぶならば、私にとってのナンバーワン作品は間違いなく、ゴシップガール*3だ。

 ゴシップガールは、アッパーイーストに暮らす若きセレブ達のゴシップをネット配信する謎の人物ゴシップガールに、セレブ達が翻弄されていくという、SNS全盛の今の時代にかなりマッチしたドラマだった。また、いちいち映像が豪華で、実際にある高級ホテルや高級レストランが『ゴシップガール』仕様に改装されていたり、本物のアーティストが『ゴシップガール』の為だけに製作したオリジナル作品の数々が陳列されていたり、本物のデザイナーによって『ゴシップガール』用に特別にデザインされた衣装をキャスト達が着用していたり…、と細部にわたって、ドラマの世界観を盛り上げる為の拘りの演出が満載だったのも見所の一つだった。

 私は、ゴシップガールのPilot、つまり第1話『Sが帰ってきた!』を見るなり直ぐに、主役のSことセリーナ・ヴァンダーウッドセンを演じていたブレイク・ライヴリーのファンになってしまった。ブロンドのロングヘアーと、抜群のスタイルを持ち合わせたブレイクは、一見すると、物凄くクールなのに、一たび笑うと、まるで子供みたいな天真爛漫な笑顔がパッと弾けて、そうしたギャップが、私にはとても魅力的に感じられたのだった。

 (そう言えば、Sに夢中だったDことダン・ハンフリー*4も、Sの笑顔について、確かそんな台詞を言ってたっけ??)

 私がゴシップガールを最後まで見続けられたのは当然、ストーリーそのものが面白かったからに違いないのだが、ブレイク・ライヴリーが主役を務めていなければこれ程までに嵌らなかったのではないか、と思うくらい、それくらい彼女のファンになっていた。

 ドラマ終了後も、ゴシップガールよろしく私は、ブレイクのファッションやヘアスタイル、メイク等には興味津々だし、それに勿論、出演作にだって注目している。

 ブレイクの出演作の中でも特に、映画『アデライン、100年目の恋*5は、私にとって、大満足で、大のお気に入りの作品となった。

 この映画は、SFラブストーリーとでも言うべき物語で、ブレイク演じるアデライン・ボウマンは、若く美しい姿を保ったまま長きにわたって生き続ける、という突拍子もないものだったが、こうした設定は、ブレイクの色々なファッションスタイルを堪能したいと思っている私のような人間にとっては、むしろ最高の設定だったと言える。なぜなら、その時代時代の流行のスタイルに身を包んだブレイクを見られるだけでも、非常に楽しかったからだ。しかも、その上、映画全体の出来の面でも、SF的な設定を十分に信じさせてくれるだけのしっかりとした説得力のある作品に仕上がっていたため、私はこの映画がとても気に入ったのだった。

 そんなブレイク・ライヴリー好きの私に、ピッタリの映画が公開されることを知ったのは、5月の初めのことだった。いつもの如く、映画の上映リストを眺めていたところ、『カフェ・ソサエティ*6というシンプルな邦題に目が留まった。その邦題の簡潔さに惹かれて、映画の詳細を見てみると、ウッディ・アレン監督・脚本作品であることが分かった。そして更に出演者一覧に目をやると、なんとそこには、ブレイク・ライヴリーと記載されているではないか!ブレイクがウッディ・アレン監督作品に出演するなんて!一体どんな化学反応が起こるのか、私は楽しみで楽しみで、仕方がなくなってしまった。そうして私はワクワクとした気持ちを抑えきれないまま、早速、映画館へ『カフェ・ソサエティを見に行くことにしたのだった。

 

 物語の舞台は、ジンジャー・ロジャースフレッド・アステアが大活躍した1930年代頃のハリウッド映画業界。ニューヨーク出身の若き青年ボビー*7が新しい仕事を求めて、ハリウッドの敏腕エージェントである叔父のフィル*8の元を訪ねてくるところから始まる。

 しかし、期待に胸を膨らませてハリウッドまでやって来た筈のボビーに、初めからちょっとしたトラブルが起こる。ボビーがいつフィルのオフィスを訪ねて行っても、仕事で忙しく飛び回っているフィルはいつもいつも留守で、ボビーはフィルに働き口を頼むどころか、ただ会うことさえなかなか叶わないのだった。そうこうしているうちにフィルと会えないまま幾日かが過ぎ、或る日やっとフィルとの面会が実現すると、なんとフィルは甥のボビーの名前さえ覚えていないという始末で、こんな叔父を頼るのは無理かと思いきや、意外にもフィルはボビーの事情をしっかり聞き入れ、早速ボビーを自分の下で雑用係として雇い入れることを即断する。しかも親切にもフィルは、まだ街に慣れないボビーの為を思って、自分の部下の女性ヴォニーことヴェロニカ*9にハリウッド中を案内させるということまで手配してくれるのだ。

 ボビーにとっては、この時フィルからヴォニーを紹介されたことが運命の出会いとなり、ヴォニーと一緒に何度もハリウッド巡りをするうちに、彼女の業界擦れしていない、自然体の姿に次第に惹かれていくことになる。そんなボビーの思いを知ったヴォニーは、ジャーナリストをしている恋人がいるから、と断るのだが、それは偽りで、実はヴォニーはフィルと不倫関係にあったのだった。が、突如、フィルとヴォニーの秘密の関係は終わりを迎え、ボビーは晴れてヴォニーと付き合い始めることになる。

 そうしてボビーとヴォニーは順調に交際を続け、遂には結婚の約束をするまでに及んだ頃になって、残酷にも、2人の運命の歯車が狂い始めてしまう。なんとヴォニーを諦めきれないままでいたフィルが、とうとう妻カレン*10との離婚を決意したのだ。それを知ったヴォニーは再びフィルの元へ戻ってしまい、恋に破れたボビーは一人、ニューヨークへと帰って行くのだった。

 ボビーは、ヴォニーへの思いを断ち切るかのように、兄ベン*11の経営するクラブ「カフェ・ソサエティ」を本格的に手伝い始めると、店は、夜な夜なセレブリティや悪党どもが集まる評判のクラブとなり繁盛していく。そしてクラブの評判が上がるのと同時に、いつしかボビー自身も、街の名士と対等に渡り合える大物となっていた。また、ボビーは私生活でも、美しいヴェロニカ*12と結婚して子供まで授かるなど、公私共に全てが順風満帆に上手く回っていた…筈だったのだが。

 或る夜、フィルとヴォニーが夫婦揃ってカフェ・ソサエティを訪れたことを切っ掛けにして、ボビーとヴォニーは再び2人きりで会うようになってしまうのだった、、。

 

 先ず、この映画全体の感想としては、見ていて大変心地良く、兎に角テンポがいい、という印象だった。台詞の流れも良ければ、シーン毎の長さも丁度いい。そして更には、背後に流れる音楽が抜群にいいのだ。劇中で「ジャズは好き?」なんて台詞があった通りに、この映画にはジャズが溢れている。危険な兄ベンの登場するシーンで、決まってかなり明るい一曲が流れていたのも映像と合っていて良かったし、また、クラリネット奏者のベニー・グッドマンが好きな私にとっては、思わず「お!」と反応してしまうような一曲もあったりで、何かと私好みの音楽が流れていた作品だったと言える。

 中でも一番、私が良かったと思った一曲は、The Lady Is A Trampだ。The Lady Is A Trampは劇中で何度か繰り返し流れていたが、特に、初めてボビーとヴォニーが2人きりで車で街へ出かけるシーンで、このThe Lady Is A Trampが使われていたのが、私はとても面白い気がした。なぜなら、気紛れな女性について歌う、この曲の内容を考えてみれば、後々ヴォニーがボビーとフィルの間で揺れ動く展開を予告するかのような粋な使い方に思えたからだ。

 (歌に登場する女性は、確かダイスゲームが嫌いだった筈だが、一方のヴォニーは、と言うと、ボビーと連れ立ってダイス遊びに興じていたっけ。そんな細か過ぎるところも比較してみると、ちょっと面白かったりもして?)

 もう一つ、My Romanceの流れるシーンも、私は好きだった。観客がヴォニーの恋人がフィルだとはまだ知らない段階で、ヴォニーが一人、My Romanceの流れる薄暗いレストランに入って来るシーンがあるのだが、その店内の照明が暗い所為で、ピアノで軽やかに奏でられるMy Romanceがほんの少しだけ不安な響きを含んでいるかのように聴こえてきてしまうのだ。「もしかしてヴォニーの相手って?まさか?フィル叔父さんじゃ、ないよね、、?」とスクリーンを見つめていると、テーブルに座ってヴォニーを待っているのは、やはり、フィルだ。つまり、そうして初めて、観客に、不倫の事実が知らされるという訳なのだ。My Romanceも、劇中で何度か流れるが、このシーンでのMy Romanceが私は一番印象に残った。

 本当に、曲も台詞もシーンも全て、テンポが良くて、見ていて思わず爪先で軽くリズムを刻みたくなる程に、気持ちのいい映画だった。三角関係や不倫を描いていたり、クラブ絡みの殺人事件が起こったりと、ヘビーな内容の部分があるにも拘らず、映画がドロドロとした仕上がりになっていないのは、このテンポの良さの御蔭なのではないか、と私は思っている。

 また全編にわたって、ユダヤ人の血を引くウッディ・アレン監督らしい、ユダヤ教に纏わるコメディ要素が散りばめられている点も、私にとっては初めて知るようなことばかりで、興味深く面白かった。

 

 そして肝心の、私のお目当てのブレイク・ライヴリーが演じたヴェロニカについてだが、ヴェロニカが登場するのは物語も中盤を過ぎた辺りで漸く、といった感じで、はっきり言ってヴェロニカの登場するシーンは、映画全体からすると比較的少なめだったかもしれない。が、私はこのヴェロニカというキャラクターこそが、この映画の爽やかさの要を担っていたような気さえした。

 ヴェロニカという女性は、常に笑顔を絶やさず、ユーモアと優雅さを兼ね備えていて、モテる女性の持つ一種の余裕みたいなものもあって、かなり魅力的なキャラクターに演出されていた。しかし本来、ボビーがヴォニーと密会を繰り返す展開を思えば、もっと夫を疑って探るような嫉妬深い女性に演出することだってできた筈だと思うのだ。でも、この映画はそうはしなかった。ヴェロニカを嫉妬深い女性にしないことで、ストーリー全体が、いい意味でサラッとした雰囲気を保ち続けていたし、ヴェロニカも最初から最後まで気持ちの安定した余裕のある女性に見えた。それが、私はとても良かったと思う。

 本当に、ヴェロニカのような女性が妻でなければ、ボビーは、かなり責められていたことだろう。ボビーが密かにヴォニーと会いながらも、ヴェロニカと穏やかな関係でいられたのは、ただただヴェロニカという女性の懐の大きさに助けられたとしか私は思えない。

 例えば、ヴェロニカへの結婚の申し込みの場面にて。人生のこんな重要な場面でも、ボビーは迂闊だったのだ。運命のイタズラか、偶然にもまたヴェロニカという名の女性を好きになった所為で、なんとボビーは「ヴォニー、結婚して」などと口走るのだ。それまで一度も、こちらのヴェロニカのことをヴォニーなんて愛称で呼んだことがなかったにも拘らず、だ。あまりに酷いうっかりミスで、普通なら「ヴォニーって誰よ、キーー!」となりそうなところだが、そこは流石ヴェロニカ、彼女の反応は一味違う。軽く微笑んで「あらヴォニーなんて呼んだの初めてね、昔の彼女の名前?」と、なんともサラッとしたもんだ。

 また別の場面でも、ボビーは迂闊なことを仕出かす。ヴォニーとの密会の直後、ボビーは心の中に妻への後ろめたさがあるのか、突然ヴェロニカにブーケの贈り物をするのだ。花束を持って帰るのが習慣ではない男性が、何の記念日でもない日にこんな贈り物をしたなら、わざわざ自ら「疑って下さい」とでも言っているようなもので、妻の神経を逆撫でしかねないところだが…。ここでも、やはりヴェロニカの反応はちょっと違う。ヴェロニカは、意外な贈り物に少し驚くものの、それ以上は深く詮索せずに、ただ夫が自分に花束をくれたという事実だけを受け入れて素直に喜ぶのだ。こうしたヴェロニカの素直な態度を見ていると、恋愛関係において、相手の行動の意図を敢えて深読みしないことも時には大事なのではないかと思ってしまう。

 …と、ここまで大いに、ブレイク演じるヴェロニカを褒めちぎっている私だが、実は、ヴェロニカの登場するシーンで私が最も好きだったのは、もっと別の場面なのだ。

 それは物語も終盤辺り、ヴェロニカが身支度をボビーに手伝ってもらうシーンでのことだ。ヴェロニカはボビーに自分のブレスレットを手渡して、手首にブレスレットを装着して貰いながらこう尋ねる、「ねえ浮気したことある?そんな夢を見たの」と。するとボビーは「ないよ、夢は夢だよ」と一言。ヴェロニカは、ここでも、また素直にボビーの言葉をそのまま信じて受け止める。この会話の遣り取りが、私はなんとも好きだった。しかも、見ていて、とてもホッとしたのだ。なぜなら、このシーンの直前で、ボビーとヴォニーが親密な様子だったため、もしかしたら穏やかだったヴェロニカが豹変して夫を追及するような激しい展開になってしまうのではないかと、私は少し恐れていたからだ。だから、このように、むしろ夫を受け入れる展開になったことが少し意外でもあり…、と同時に、私のヴェロニカ像を裏切らない展開になったことが嬉しくもあったのだ。最後の最後まで、ヴェロニカがヴェロニカらしくいてくれたことに私はとても安堵した。それに、やはりヴェロニカには激昂する展開は似合わないと思う。映画全体の雰囲気と同じく、ヴェロニカ自身にも軽やかで爽やかな大人な女性であり続けて欲しいからだ。

 

 ウッディ・アレン監督に演出されたブレイク・ライヴリーは、私が期待した以上に、とても素敵な女性ヴェロニカを演じて、魅せてくれた。作品自体も私好みだったし、ブレイクの役柄もとても気に入った。

  また、今まで私が見たウッディ・アレン監督作品中でも、かなり好きな部類の映画に出会えたと思っている。小柄な身体に溢れんばかりの才能の詰まった、小さき巨人のウッディ・アレン監督には、後々まで残るレガシーとなるような映画をまだまだ世に生み出して欲しい、と願ってならない。

(…て、多少強引な「レガシー」締め。)

 

 ちょっと、おまけ。

 フィルを演じていた「怪盗グルー」さんの名前をド忘れしてしまって、ウィキペディア『カフェ・ソサエティのページを参照してみたところ、こんな気になる記述を見つけた!

ブルース・ウィリススティーヴン・キングの小説『ミザリー』を原作とした劇に出演するために本作を降板した。ウィリスの代役にはスティーヴ・カレルが選ばれた。

「カフェ・ソサエティ」『フリー百貨事典 ウィキペディア日本語版』。2017年5月5日 (金) 23:39 UTC、URL : http://ja.wikipedia.org

 まさかフィル役がブルース・ウィリスの可能性もあっただなんて聞くと、ブルース・ウィリスだったらどんな感じだったのだろうと想像せずにはいられなくなってしまうが、スティーヴ・カレルの演じるフィルは、間違いなく最高だったと思う。あの歯切れのいい台詞回しが私は好きだ。

 

 また今回の記事タイトルは、1930年代に若者がハリウッドに向かうという『カフェ・ソサエティの内容とピッタリ合う一曲、1933年の有名なジャズナンバーGoing Hollywoodに因んだものである。

 

「カフェ・ソサエティ」オリジナル・サウンドトラック

*1:2015年~、原題はEmpire

*2:演じるのは、テレンス・ハワード

*3:2007年~2012年、原題はGOSSIP GIRL

*4:演じるのは、ペン・バッジリー

*5:2015年、原題はThe Age of Adaline アデライン、100年目の恋 [Blu-ray]

*6:原題は、Café Society

*7:演じるのは、ジェシー・アイゼンバーグ

*8:演じるのは、スティーヴ・カレル

*9:演じるのは、クリステン・スチュワート

*10:演じるのは、演じるのは、シェリル・リー

*11:演じるのは、コリー・ストール

*12:演じるのは、ブレイク・ライヴリー