「かたお」片手に、超高速で!映画館へ観賞に ―『超高速!参勤交代 リターンズ』を見て―
少しだけウィンドウショッピングでもしたら、早めに家に帰ろう、っと。そう思いながら、私は、その日、お店の中をちょっとブラブラしていた。新商品の便利な文具を見たり、ハロウィーンのデコレーションを眺めたり、ブラブラブラブラ、当てもなく商品を見て回るのは、なんとも楽しい時間だ。ブラブラしながら、今度は、健康グッズ売り場に足を踏み入れた。すると売り場の目立つ一角に、「メディアで紹介された」との旨の大きなポップが掲げられていた。そこに陳列されていたのは、大小、4種類の白い箱。箱には其々、「やわこ」、「かたお」、「MAXやわこ」、「MAXかたお」と記載されていた。ボールが2つ連なったような形状をした、お手軽マッサージ器具らしい。
「あれ?そういえば、これ、どこかで見たなあ? あ!『おじゃMAP!!*1』で紹介してた商品だ!」と、私は思わず足をとめ、サンプル品を一つずつ順に、手に取ってみた。
「むむ、これは、なかなかの弾力。こっちのは結構、か、硬いなっ」
そう。9月14日に放送された佐々木蔵之介さんがゲストの「おじゃMAP!!」で、「長時間座ったままでいると腰や筋が痛くて大変で困っている」という蔵之介さんの悩みを受けて、慎吾くんと蔵之介さんが実際にドンキホーテで購入した商品がこの4種のうちの一つ、「かたお」だったのだ。偶然見た、そのテレビ番組のことを売り場で思い出した私は、慎吾くんと蔵之介さんに倣って、2人が購入した「かたお」がどうしても欲しくなってしまい、その日はウィンドウショッピングだけと決めていた筈が、まんまと「お買い上げ」してしまったのだった。
(そうなのです、私はとても影響を受けやすいタイプなのです。)
思いがけず「かたお」も手に入れたことだし、この辺りで「売り場巡り」は切り上げて、そろそろ帰宅することにしようと、お店を出て駅に向かって歩き出した私。歩きながら、頭の中ではまだ、蔵之介さんゲストの「おじゃMAP!!」のことを思い返していた。
「蔵之介さんがゲストの『おじゃMAP!!』楽しかったなあ、激安グルメ旅だったっけ。それにしても蔵之介さんがゲストだっていうのに、激安グルメでおもてなしってところが面白いな。」
…等と考えているうちに、私は、ふと「何か」を忘れているような気がしてきた。その「何か」を思い出すために順を追って記憶を辿ってみる。
「えーと、蔵之介さんは一体何の番宣で『おじゃMAP!!』に出演したんだっけ。確か映画の番宣だったな。それは何ていう映画だっけ?激安グルメと関係あったような?激安。激安?そうだ、激安なのが、貧乏には丁度合ってるって蔵之介さん言ってた。でも、どうして貧乏なの?貧乏、貧乏、貧乏藩?!あーーーっ!『参勤交代』。『リターンズ』!すっかり観るの忘れてたーー!」
つまり、私がすっかり忘れていた「何か」とは、佐々木蔵之介さん主演の『超高速!参勤交代 リターンズ』を映画館に観に行くことだったのだ。9月公開のこの映画、見に行こう、見に行こうとは思ってるうちに、もう完全に失念していた。そして、漸く思い出したからには、さあ大変!「相馬!知恵を出せ!」とばかりに、私は鞄から急いでスマホを取り出して、上映中の映画館を検索した。すると、いくつかの映画館がヒットした。「ここから映画館に向かうならこの上映館が丁度いいだろう」と、ささっと目星をつけて、更に、ナビタイムで所要時間も検索。
「この場所からだと、映画館まで電車で30分弱かな。上映時間までは45分か。ギリギリだな。間に合わない?どうしよう。うーーん、ぇえーいっ、もう悩んでる時間はない、走れぇーーーーーっ」と、私は一目散に、脱兎の如く駆け出した。
右肩にバッグをかけて、左手には「かたお」の入ったレジ袋を提げて、足元は革靴だし…。どう考えても走るには適してないのだが、それでもなんとかかんとか「ここはもう映画好きの意地でござる」(?)と、前作の『超高速!参勤交代』で江戸まで5日で駆け抜けた貧乏・湯長谷藩の仲間になったつもりで(?)、駅まで走った。
「えっさ、ほらさ、えっさ、ほらさ」
駅の手前には、大きな下り坂。「下り坂は難しい」とかいう誰かの駅伝解説がふと頭によぎり、坂道での体重移動には十分注意しながら駆け下りる。駆けるスピードは維持したままで、改札にスマホをサッとかざし、電車に滑り込む。
(ホントはいけない駆け込み乗車、御免!)
「電車、間に合ったー」、車内で深呼吸、息を整える。
そして、約30分後。下車した駅から映画館まで、再びダーーーッシュ。
「えっさ、ほらさ、、ふう、、きっついーー、、え、っさぁあ、ほらさぁ、、ぁあ、、はあ、はあ、、これで間に合わねば、俸禄抜きじゃあ、、はあはあ」
まだ走る走る走る。
『超高速!参勤交代』で湯長谷藩の6人は褌一丁のお尻丸出し状態で走っていたけど、私の方は、まるでお尻に火が付いた兎だ、いや?お尻に火が付くのは狸の方か?、いやいや、そんなことはどうでもいい、要は一生懸命走った、ってこと。
そんなこんなで。
「はああ、、、到着したああ、はぁはぁ」、映画館の前で膝に手をおいて、呼吸を一旦落ち着かせる。そうして初めて腕時計を一瞥、「よし、上映時間に間に合ったぞ。」
今から思えば、別にその日に急いで見なくても、また日を改めて観に行けば良かったじゃないか、という冷静なツッコミをしたくもなるが。きっと気付いた日のうちに行かなければまた逃す、だからその日で良かったのだ、と自分に言い聞かせている。多分「かたお」に出会したのも「今日見なさい」っていう託宣だったに違いない?のだ(???)。(うーん?それはどうだろう?マッサージ器具の託宣なんて聞いたことないぞ?)
走った甲斐もあって、無事にチケットも購入し、長い長い予告編中に劇場入りできた私は、どっかりと座席に腰を下ろした。
「ふう、楽しみ」
物語は前作の続き、湯長谷藩の面々が江戸から湯長谷へと帰るところから始まる。つまり「参勤」を描いた前作に対して、今作は「交代」、2作品で漸く「参勤交代」が完了するという訳なのだ。
スクリーンには、湯長谷藩主・内藤政醇*2、家老・相馬兼嗣*3、武具奉行・荒木源八郎*4、膳番・今村清右衛門*5、側用人・鈴木吉之丞*6、馬廻・増田弘忠*7らが相変わらずの様子で登場し、とても嬉しくなった。勿論、子猿の菊千代も。
なんと信祝は恩赦により蟄居を解かれてしまっていたのだ。とは言え、信祝だって人の子、いくらなんでも、反省くらいはしているだろう、と思って見ていると、寧ろその逆で、以前にも増して太々しく、悪に磨きがかかっているようだった。信祝は、蟄居が解かれるや否や、配下の者を使い、江戸市中で陰謀を重ね、更には大きな野望を実現させるため着々と準備を進めていたのだった。
信祝が再び魔の手を各地に伸ばし始めているとは露も知らない湯長谷藩の面々は、牛久の例の旅籠・鶴屋に暫し留まり、政醇とお咲*9の結婚を祝って酒盛りをしていた。
そんな折、また例の如く江戸家老・瀬川安右衛門*10が宴の場に息を切らせて駆け込んでくる、再び悪い知らせを引っ提げて。それは、湯長谷藩で一揆が起きたとの知らせだった。しかも既に、幕府からは調査のための目付が派遣されており、目付の湯長谷到着は2日後。その目付が湯長谷に着く前に一揆を治められなければ湯長谷藩お取り潰しは確実、と瀬川は必死で政醇に訴えたのだった。瀬川の報告を聞いても尚、「湯長谷で一揆が起きる訳がない」と困惑する一同だったが、目付が既に出発している状況の今となってはもはや悩んでいる時間さえもないのだった。兎にも角にも、お取り潰しを回避するために今出来得る最善を尽くす他ない。それには、目付より先回りして湯長谷に到着するしかないのだが…、いくら健脚の彼らとて先回りするなど、とてもとても無理ではないか。あの死に物狂いで駆け抜けた「参勤」でさえ湯長谷から牛久までは4日かかったのだ、それを今度は2日で行き着けとは!なんと過酷なことだろうか。しかしながら、それを承知で、政醇は湯長谷まで2日で戻ることを決意し、いつものように「相馬なんとかせい!」と一喝するのだった。
こうして彼らは、帰りの「交代」も「参勤」以上に必死で走るしかなくなってしまう。果たして彼らは目付より先に湯長谷に到着し、湯長谷の土地を無事治めることはできるのか。
そして、信祝の企みとは一体何なのか。
再び政醇VS信祝の戦いが始まる。
因みに、今作で祐筆・秋山平吾*11は江戸の湯長谷藩邸を拠点にして南町奉行・大岡忠相*12と共に、信祝の企みを暴こうと活躍する。
映画を見終えてみて一言、「楽しかった」!今回も、最初から最後まで笑いどころが沢山あって、楽しかった。よく笑って、気持ちが温かくなって、大満足だ。
という訳で、私が気に入ったシーンをいくつか挙げてみることにしよう。
先ずはやはり何と言っても、一番は疾走シーンだろう。だって今回は前回の2倍速、飛脚も思わず2度見してビビる程のスピードなのだから、「えっさほらさ」と駆け抜ける彼らの姿に注目せずにはいられない。そうは言っても、ただ只管に走っているばかりで済まないのが、先を急ぐ彼らにとって辛いところだ。何しろ彼らは「交代」の最中なのだ、当然要所要所で1万5千石なりの行列を見せなきゃならない。その上、宿場では、彼らを湯長谷に到着させまいとする信祝の仕掛けも待っている。その度に、あの手この手で、知恵を絞って絞って、、絞りまくる相馬!!あの知恵を絞り出す時の相馬の「顔芸」が私は大好きだ。 顔芸と言っては、演じる西村さんに余りに失礼かもしれないが、相馬が少し蟹股の立ち姿で顔を歪めて政醇に進言する時の顔を見ていると、ついつい笑ってしまいながらも、相馬を応援せずにはいられなくなるのだ。
相馬が考えついた数々の策の中でも、「死んだふり」作戦は特に最高だったと思う。「死んだふり」作戦のシーンは、単純にもう、ビジュアル面においても、爆笑だった。だって政醇殿の白目を剥いた顔、めちゃくちゃ強烈なんだもの!凄かったなあ、あのゲッソリした顔!舌まで真っ黒にするという念の入れよう!死人メイクがバッチリ決まってた(?)政醇殿!でも本人達にしてみれば生き死にが係った場面、大いに真面目なのであろう…。必死の思いで「死人」役に臨んでいるからこそ、それが傍目には可笑しい、そんな場面だ。
そして、もう一つ。その「死んだふり」作戦のシーンと同じくらい笑えて気に入った場面と言って思い出すのは。「交代」を終えて色々と、一悶着あった後に、湯長谷城内で戦いとなるシーンだ。その場面に居合わせるのは、政醇、お咲、雲隠段蔵*13、そして敵の多次郎*14だ。それは、鎌使いの多次郎が政醇の首を獲ろうと一騎討ちを仕掛けてくる、というなかなか緊迫した場面の筈なのだが、少し可笑しな展開を見せる。お咲は、今まさに目の前で政醇が危険な目に遭おうとしているというのに、それよりも多次郎の突然の登場で「邪魔されたこと」に、プンプンなのであった。実は、多次郎が現れる直前、お咲は政醇へ愛の告白をしていて、今度は政醇からの返事待ちという丁度そのタイミングで、多次郎なる輩はやってきたのだ。お咲にとっては、バッドタイミングだったという訳だ。そんな事情で、お咲は多次郎のことをすっかり無視して、戦う政醇の背中に向かって「私にばっかり気持ちを言わせてズルい!殿の気持ちも聞かせて!ちゃんと言ってくれなきゃわからない!」と駄々をこね始めるのだった!そんなお咲の様子を見て、暫し閉口し呆気にとられる段蔵。当の政醇も「お咲!今言うのか??」と目を丸くし困惑気味だ。最後には、敵の多次郎も、お咲の所為で自分の「名乗り」が完全にシカトされた形となり「聞けええー!」と怒鳴る始末。「お咲さん、政醇殿の気持ちを聞きたくて山々なのは分かるが、いくらなんでもマイペース過ぎやしないか、場違い過ぎだろう。お咲、空気読んで!」と、私も思わず心の中でスクリーンに向かってツッコミつつも、笑ってしまった。3人の男性がお咲一人に振り回されて、困り顔になっているのが面白い。お咲を演じる深キョンのああいう演技・表情は絶品だな、と改めて再認識。緊張と緩和が最高のシーンだったと言えるだろう。
それから、短いシーンだったけれど、参勤交代を終えた荒木と妻・富江*15が久しぶりの再会を果たした後に交わす会話も面白かった。たった一言二言で夫婦の力関係が一目瞭然となるシーンで、荒木源八郎を演じる寺脇さんらしい、お得意のコメディシーンとも言えるかもしれない。「間」が抜群だった。
また、カッコ良かったシーンと言えば、クライマックスとなる戦での、湯長谷藩の7名と1匹がスローモーションで横並びで歩いてくるシーンを挙げたい。ああいうスローモーションシーンは、もはやベタだけれど、やっぱり見ていて気持ちがグッと盛り上がるし、良かったなあ。そして、この戦のシーンの終わりでは、政醇と宿敵の信祝が相対するのだが、政醇は信祝に驚くべき言葉を投げかける。それは、政醇の人としての大きさが分かるような言葉だった。私も政醇殿のようにあんな大きな心の持ち主になりたいものだ、政醇殿あっぱれでござる。こんな素晴らしい藩主ならば、この先も、いくら困難が押し寄せても乗り越えられそうだ。それに政醇の周りには志ある人が自然と集まり、寄り添い、力を貸してくれるだろう。湯長谷は、土地も人心も肥沃だ。
でも、そんな大人物の政醇も、未だ閉所恐怖症にだけは勝てないらしい。前作では確か、お咲と一緒ならば閉所恐怖症の症状も和らぐ迄に回復したようだったが、厠だけはどうしても駄目らしい。流石に夫婦といえども連れ立って厠へ…という訳にはいかないだろうから、難しいところだ。そういう意味では政醇にとっては厠が一番の鬼門かもしれない。
湯長谷に再び平和が訪れ、流れてきたエンディングテーマに耳を傾けると「走り出したら止まらない」との歌詞が聞こえてくる。何ともピッタリな歌詞に、一体誰の歌だろうとクレジットを待つと、斉藤和義さんの『行き先は未来』という曲だった。エンディングテーマも、ちゃんと映画のテーマによく合ってて、とてもいい!これって凄く大事な点。だって折角ストーリーが良くたって、曲がてんで合わないんじゃあ雰囲気ぶち壊し、お話にならないもの。だから、この『超高速!参勤交代 リターンズ』みたいに、最後まで気を抜かないでいてくれる映画が私は大好き。
以上、私が映画を見て気に入ったところをいくつか挙げてはみたけれど、はっきり言って、この映画は始まりからエンディングテーマに至るまで丸々、大満足の作品だった。偶々ウィンドウショッピングをしてたお陰で、『超高速!参勤交代 リターンズ』のことを思い出せて、映画も見れて良かった。もう「かたお」さまさまって感じ。これだけ楽しめたら、私も走った甲斐があったってものだ。
映画館からの帰りは、もう走る必要も全くないので、ゆっくりと帰宅。家に到着するや否や、「これで『かたお』も使い勝手が良かったら最高なんだけどなあ」と早速、箱を開けてみる。箱の記載に従って、「かたお」を背中や腰に当てながら、その上に寝っ転がる。「お?予想以上に良さそうな感じ?」更に、脹脛や足裏もマッサージしてみる。「うむ。これは走った後の足腰に効きそうなマッサージ器具かもしれない。参勤交代のあった、あの時代にも『かたお』があったなら、湯長谷藩の彼らもどんなにか良かったろうなあ。」…な~んて、ね。お疲れの湯長谷藩の面々にも是非「かたお」をプレゼントしたいような気分になりながら、私はごろんと横になった。
これは、楽しく超高速で駆け抜けた私の、10月の或る日の出来事。