- comme l'ambre -

2015年12月1日開設

身も心も淋しくて。 ―『AMY エイミー』を見て―

2011年7月23日に、27歳という若さでこの世を去った、歌手のエイミー・ワインハウス

彼女の歌手人生を追ったドキュメンタリー映画『AMY エイミー*1を見てきました。

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"27" 

享年27、つまり、エイミー・ワインハウスも今や「27クラブ」の一員となってしまった訳です。

本当に若い…、若すぎる。

以前、ブログで映画の感想を書いたことのある、カート・コバーンも、やはり「27歳」でした。

一体なぜポップスター達は、27歳で天に召されてしまうのか…。 

27クラブ(英: The 27 Club、トゥエンティセブンクラブ、にじゅうななクラブ)は、27歳で他界したロックやブルースの音楽家達のことである。しばしば、クラブ27やフォーエバー27クラブとも呼ばれる。元々は、27歳で他界したブライアン・ジョーンズジミ・ヘンドリックスジャニス・ジョプリンジム・モリスンカート・コバーンの著名なロック・ミュージシャン5人を指していた。

「27クラブ」『フリー百貨事典 ウィキペディア日本語版』。2015年12月11日 (金) 21:17 UTC、URL : http://ja.wikipedia.org

"Rehab" 

エイミー・ワインハウスに関して、映画を見る前に、私が知っていたこと、それは…。

  • ゴシップ誌の常連だったこと。
  • 大ヒット曲Rehabのこと。
  • 特徴的なヘアメイクやタトゥーのこと。
  • トニー・ベネットとデュエット共演を果たしたこと*2

凡そ、知っていたのは、このくらいのことだけ。あまり詳しいとは言えません。

しかしなぜだか、昨年末にドキュメンタリー映画『AMY エイミー』が公開予定であることを知らせる記事を読むや否や、とても興味を惹かれ、公開されるまでの約半年程、映画の封切りが待ち遠しくて堪らなかったです。

映画を見る前にRehab以外の曲も聴いてみようかな…、とも思ったけれど、敢えてそれは止めて、映画の関連記事を読むに留めておきました。

そんな訳で、エイミー・ワインハウスに関する知識はあまりないけど、期待値はMAXの状態で、映画館に向かった私。

で、見終わってみて。

とても丁寧に作られたドキュメンタリー映画という感じがしました。

映画を見る前に読んだ記事の中には、アシフ・カパディア監督のインタビュー記事もあったのですが、そのカパディア監督の言葉通り、観客に「リアルなエイミー」を真摯に見せてくれる作品でした。

エイミー・ワインハウスの身になにが起きたのか?オスカー受賞作『AMY エイミー』|「とても複雑で、けれど非常に聡明な女性だった」アシフ・カパディア監督インタビュー - 骰子の眼 - we

アシフ・カパディア監督のインタビュー記事。エイミー・ワインハウスの真の姿に迫るボリウッド映画的作品『AMY エイミー』。

2016/08/06 21:32

 #JazzSnob

映画が始まると、もう最初から、私には驚きの連続でした。

エイミー・ワインハウスは、なんとジャズシンガーだった!、このことは私にとって、とても意外な事実でした。なぜなら、今まで、エイミーがトニー・ベネットと共演したのも、異色の取り合わせの面白さという点からだけで企画したものと完全に勘違いをしていたからです。

だって、私にとってエイミー・ワインハウスと言ったら、やはりRehabのイメージが強い。だから、スクリーンの中で、Rehabとは全く違った歌い方をするエイミーの姿が、私には本当に珍しく目新しく感じて、目も耳も、釘づけになってしまいました。

エイミー・ワインハウスにしてみれば、寧ろRehabの方が、それまでの自身の作品とは一線を画す新境地を開いた一曲だったってことなのでしょうね。

ほんと全く知りませんでした。彼女が本来、ジャズの人だったなんて!

 

エイミー・ワインハウスは、紛れもなくスタンダードも歌いこなすジャズシンガーでした。しかも、映画でも、彼女の歌声を"mature*3"と形容していたように、10代、20代のジャズシンガーだなんて、とてもとても思えないような声の持ち主でした。

俗に、「枯れた芸」なんていう言い方があるけれど、エイミーのは、正にそれ。

「枯れた」歌いっぷりでした。

 

(少しだけ脱線。)

私は昔からジャズが大好きで、中でもフランク・シナトラは今まで何度となく聴き続けてきたし、とても好きなジャズシンガーの一人です。

シナトラの現役時代は非常に長く、幸運なことに、私達に沢山の録音を残してくれています。

ある一つの曲が、一度だけの録音に止まらず、再録音されている場合も多々あるために、同じ一つの曲で「年代別シナトラの聴き比べ」が容易にできてしまう程。こんな聴き比べができるのもシナトラの楽しみ方の一つだと、私はいつも感じています。

一般的にシナトラと言えば、MY WAYが一番有名かもしれませんが、あれは、シナトラがリプリーズ・レコード在籍時の1968年、53歳の頃の歌声です。

それから、どんどん時代を遡って、シナトラの歌声を聴き比べて行くと、どんどんどんどん透き通った歌声に変化していきます。

シナトラが"THE VOICE"と呼ばれていた20代後半頃の歌声などは、本当に真っ直ぐで綺麗な若々しい声です。

 

一方、エイミー・ワインハウスの歌声ときたら、どうでしょう。20代という若さなのに、酸いも甘いも、何もかも、全てを経験してきたかのような歌いっぷり。

 

「エイミーの実年齢と反比例した円熟の歌声は、シナトラに例えてみたら、一体どの辺りの年代の声に当たるんだろうか…」、なんてことを、私はふと考えてしまいました。

I'm a Fool to Want Youを歌った30代半ばのシナトラのような歌いっぷりかなあ…?」

「いやいや、それとも、もっともっとずっと先の、It's Was a Very Good Yearを歌った50歳頃のシナトラに匹敵するような熟練ぶりと言えるだろうか?」、…なんて具合に。

 

一体全体どうしたら、エイミーは若くして、あのような成熟した歌い方に到達できてしまったんだろう。

とっても不思議です。

しかも無理して背伸びしているような感じもないし。

声がしゃがれている、という訳でもないし。

ちゃんと背景に人生の経験値があるような、何とも不思議で魅惑的な「枯れた」歌声。

エイミー・ワインハウスのジャズシンガーとしての歌声には、本当に驚かされ、感動しました。

GOSSIPS

また反対に、衝撃的で驚いたのは、エイミー・ワインハウスが名声を得るにつれ、次第にゴシップの女王として名を馳せて行く、その危うい姿。

エイミーが、Overdose*4と拒食・過食を繰り返し、不自然に痩せて行く姿を見るのは辛かった…!

元々が小柄な上、それ以上に細い手足と、少しぽっこりと出た下腹。

華美なヘアメイクで、ある程度は誤魔化しても、私の目には、飢餓状態に近いように映りました。エイミーの不健康で痛々しい姿に、どうにかならなかったんだろうか、と悲しくなりました。

しかしながら、当時は、悲惨な状態のエイミーをテレビやゴシップ誌で笑い者にしていた訳ですから、現実は残酷です。

ゴシップの渦に一旦飲み込まれると決して抜け出すことはできないのか。それとも、周りが態とそうさせまいとするのか。

報道が過熱した状態は、怖い。渦中の只中にいると、過熱してることにも気付かないのかもしれない。

でも、報道が過熱した中にあっても、冷静にエイミーのことを本気で心配し手を差し伸べる心ある人達もいて、何度か立ち直るチャンスはあったものの、その都度、エイミーの父親や夫の横槍が入り、チャンスは一気にふいになってしまう。その繰り返し。

エイミーは生涯を通じて、愛する2人の男性、つまり父親と夫に悩まされ続けます。

けれども、残念ながら、エイミーは2人のことを愛しているから、結局は許して、振り回され続けてしまう。もうこれは、他人には、どうにも手出しができないところだったのかもしれません。

家族の問題は難しい。辛いし、悲しい。

身も心も

健康問題やゴシップで身も心もぼろぼろになってしまったエイミー。

そんな悲惨な状態の中でも、彼女が、ただただ歌が大好きな普通の一人の女性なんだなあ、ということが改めてよくわかるシーンがありました。

それは、エイミーが、憧れのトニー・ベネットBody and Soulのレコーディングに臨むシーンです。

そのシーンに至るまでのところで、エイミー・ワインハウスという人が、歌が大好きなこと、ジャズが大好きなこと、トニー・ベネットが大好きなことが、私にはもう十二分に理解できていたので、レコーディング風景が映し出されると、なんだか胸が一杯になって涙が出てしまいました。

スクリーンの中のエイミーも、憧れのトニー・ベネットを目の前にして、感動したのか、上手く歌えなくなるくらいの緊張ぶりでした。

自分の思うように歌えなくて、トニー・ベネットを困らせてしまうのではないか、と凄く不安がるエイミーの姿が、私には漸く年相応に感じられて、可愛らしく見えました。

でも、また、一たび歌い始めると、あの枯れた歌いっぷりだから、ギャップが面白い。

この映画を通じて「ゴシップの女王」ではないエイミー・ワインハウスの姿を沢山見ることが出来たこと、彼女の素晴らしい歌声を知ることが出来たこと、本当に感動しました。

けれど、素晴らしいドキュメンタリーであるだけに、エイミー・ワインハウスの心身が崩壊していく様が手に取るように分かってしまうのは、辛くて仕方がなかったです。

 

彼女がトニー・ベネットの前で見せたような可愛らしい笑顔で、今もどこかで歌い続けていてくれたらいいな、と願ってなりません。

 

スタンダードナンバーのBody and Soul、この『AMY エイミー』を見たおかげで、私にとって今まで以上に好きな一曲になりました。

(素晴らしい録音を残してくれて、ありがとう、エイミー。)

 

( ´ー`)。о(そういえば、エイミーがギャングスタラップをやってみようかなんて話してる場面があったっけ。彼女のバトル、見てみたかったなあ。)


Tony Bennett, Amy Winehouse - Body and Soul

*1:2015年、原題はAMY

*2:アルバム『DuetⅡ』、2011年9月リリース。

*3:「熟した」の意。

*4:薬の過剰摂取のこと。