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- comme l'ambre -

2015年12月1日開設

我アリテ、妄想ス ―『教授のおかしな妄想殺人』を見て―

『教授のおかしな妄想殺人*1を見てきました。

ウディ・アレン監督・脚本作品です。

主人公のエイブを演じるのは、ホアキン・フェニックス

そしてエイブを慕う女子大学生ジルを演じるのは、エマ・ストーン

 

もう凄い変な話だった!

で、最後は、思わず「わっ!!」って声が出ちゃいそうな程びっくりする結末が待ってる。

小さな小さな「物」が主人公の人生を決定付けることになるんだけど、きっと見た人はみんなびっくりするんじゃないかな。

「え!あの時の、あれがまさかこんなところに」って。

 

Je suis... 

この『教授のおかしな妄想殺人』って映画。

主人公のエイブは、哲学を専門とする大学教授なのだけれど、どうやら、ストーリー自体も哲学コメディだったのかもしれない。

つまり、サルトル実存主義を実地で行く感じのストーリーで、最後には、それを引っ繰り返すコメディだったのかな、って。

正直言って、私はサルトル実存主義について、キーワード程度しか分からなくって…(;・∀・)そのレベルでサルトルを語っていいものか悩むところなんだけど。

でも見終わった後に、サルトル絡みの物語だって感じたから、そのことを頑張ってどうにかこうにか説明してみたいと思う。

ちょっと、にわか知識で語るなんて恐いもの知らず過ぎるけど、書いてみちゃおう。

(何だかいつも以上にとっ散らかった感想になりソでコワい…) 

donc, 

物語は、エイブが新しい大学に赴任してくるところから始まる。

新天地で新生活が始まるというのに、エイブの表情は暗い。

なぜなら、エイブは、人生に意味も見出せず、生気もすっかり失ってしまっていたからだ。エイブのために歓迎会が開かれても、エイブは他者と積極的に交わろうとする気もない。

しかし、物好きな人はいるもので…。

エイブを慕う、一人の女子大学生が現れる。彼女の名前はジル

ジルは、恋人のロイ*2と一緒にいる時も、エイブの噂話ばかりしてしまうくらい、エイブの哲学クラスと、エイブ自身に傾倒していた。

次第に、ジルは、大学でも噂される程、学内でも学外でも、エイブと二人で過ごすようになって行く。

しかし、エイブは、若いジルに好かれても、未だ人生に前向きにはなれないまま。

が、そんなエイブに転機がやって来る。

それは、いつものように二人きりで過ごしていたエイブとジルが、連れ立ってダイナーへ食事に出かけた時のこと。

二人は、偶然、隣のテーブルから聞こえてくる会話の内容に興味を惹かれ、耳を欹ててしまう。

なんとも理不尽で不幸な話に、すっかり同情してしまうジルとエイブ。

しかしエイブの気持ちは、同情だけでは収まらない。

なんとその時エイブは、密かに完全犯罪の実行を決意する。エイブは、隣のテーブルから聞こえてくる話を盗み聞きするうちに、当事者である隣のテーブルの彼らに代わって、正義の鉄槌を下すことが出来るのは、第三者の自分だけだと確信してしまったからだった。

完全犯罪を行うと決断したその日から、エイブはまるで生き返ったように、人生を生き生きと謳歌し始める。エイブの暗くどんよりとしていた顔は、打って変わって、すっかり艶やかになり、エイブは恋愛にも前向きになる。

そして、いよいよ、エイブは完全犯罪を決行することになるのだが、完全だった筈の犯罪は徐々に綻び始め、エイブとジルの関係も、そのままではいられなくなってしまうのだった… 

Je pense...

ジャン=ポール・サルトル*3とは、フランスの哲学者で、作家無神論の立場で実存主義を唱えた人物。

サルトルは、「人は自由の刑に処せられている*4という有名な言葉を残している。

どういう意味かと言うと…。

人は誰しも、好むと好まざるとにかかわらず、自由の中に放り投げられていて、その中で一人一人主体的に自力で己の道を進んで行かねばならない状況にある、ということ。

つまり、人というものは、先ず何者でもない空っぽの状態で生まれてきて、そこから自分で自分の行動を取捨選択し、自己決定し、自分を形成して行かなければならない、しかもその選択・決定に伴う責任も自分で負わねばならない、という厳しい運命にあるのだという意味で、人は否が応でも「自由の刑に処せられている」という訳。

そして更にサルトルは、自由の中で自己を実現していく様をアンガージュマン*5という言葉で表した。

 

で、こうしたサルトルの考えを踏まえて映画を見てみると。

生きる意味を見いだせない状態だった時のエイブは、正に、自由の刑に処せられちゃってる真っ只中の状態だったようにも思えるし。

そして、そのエイブが、完全犯罪の遂行に生きる意味を見出し、その目的に向かって自らの身を投じて行く様は、アンガージュマンの状態のようにも見えてくる。

こう考えると、哲学科教授が哲学思考で自己実現を果たす、という実存主義的な映画に思えてこない?

(…思えない?)

で、最後は、完全犯罪を実行した責任も、自分自身でちゃんと、とるの。

でも、この完全犯罪への責任のとり方だけは、エイブは主体的ではなく、なんて言うか、偶発的運命的

エイブの人生は、不本意にも、小さな小さな「物」に運命付けられてしまう。

この結末が面白いと思う。

この部分こそが、この映画の哲学コメディたる最たる部分かも?

だって、サルトルの唱えた実存主義に依れば、人生は自ら切り開くことで作られる筈で、人生を左右する神なんていない筈でしょ?

それなのに、結局は、どうにもならない偶然性によってエイブの人生が決まってしまうなんて!

哲学思考を完全におじゃんにするかのような、なんとも皮肉な結末だと思う。

運命には抗えない、と痛感してしまう。

それに、人知の及ばないことってやっぱりある、って思う。

主体性を貫き通すってどうしたって不可能じゃないかな。

 

でも反対に、この小さな小さな「物」がそこに存在していたことは必然だったのだ、と考えると…?その限られた自由の中で主体的であろうとした結果とも言えるし…。果たして、偶然必然?どちらかな?

もしかしたらエイブの持ち得る自由は、完全犯罪を決意してしまった時点で、もう既にかなり狭まっていたのかなあ…?

 

…、こんなことを色々思わせてくれる結末のあり方、これが凄く面白いって思った。

 

しかも、結末部分のバックグラウンドミュージック*6もとても良く合っていたっけ。ちょっとライブ形式っぽい雰囲気で、拍手や掛け声なんかが入っていたなあ。

In Crowd (Reis) (Rstr) (Dig)

 

以上、これが私が実存主義コメディーだって思った理由。

どうかな?ちょっと実存主義への理解が浅すぎて、少し違う?

残念ながら、今の私の頭ではこれが限界!

あは…( ̄▽ ̄)

 

でも、きっとサルトル実存主義についてよく知っている人は、知らないよりもずっとずっと深く、この映画を楽しめちゃうんじゃないかと感じたから、少し無理矢理でも何でも兎に角書いてみちゃった。

(でも、書いてみたものの、実存主義ってこういうことじゃなかったらさ…それこそ、今回のブログ、おじゃんだよね…実存主義のことをパパパッと理解できちゃう簡単な入門書とかないかなー…)

 

それにしても、あんなにどんよりした顔付きだったエイブが、完全犯罪を決意した途端に、顔がツヤツヤになっていく様は本当に可笑しかったなあ。

人はこうまで変わるのか、と。

でもでも、犯罪に身を投じることで、社会参加するのは、絶対に止めて頂きたいけどね。

 

POETRY

ちょっとおまけの、全然関係ない、きっと誰にも共感して貰えない話。

ジルを演じたエマ・ストーン

私は常々、彼女の瞳は、マイケル・モンローに似てると密かに思ってる、あのハノイ・ロックスのボーカルの。

悲しいことに、今のところ、誰にも共感して貰えてない。

今回もエマ・ストーンの、あの大きな大きな目が見たくて、この映画に釣られたと言っても過言ではない。

「今回も似てるかなー」ってそんなことを思いながら楽しみに映画を見に行ったって訳。

でも今回はね、あんまり似てなかった!ちょっと残念。

一番似てたのは、『バードマン、あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)*7の時かなー?

だけど、ジルの台詞に"poetry"って言葉があったんだよね。

頭の中にマイケル・モンローに似てるっていう前提がある私は、"poetry"って単語を聞いただけで、とても面白く感じてた。

「Street Poetryだーーー」って。

ハノイの最新アルバムのタイトルがStreet Poetry

ね。

これは、すごくどーーーでもいい話。

でも、もしかしたら、私以外にもマイケル・モンローとエマ・ストーンが似てるって思ってる人がいるかもしれないから書いとく!

 

 

『教授のおかしな妄想殺人』って映画は考えれば考える程、色んな考えを思い起こさせてくれる作品だった。

あーでもない、こーでもないって、誰かと語り合いたくなる作品と言えるかもしれない。一人より二人で見に行った方が盛り上がりそうな映画って気がした。 

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 ―  おっと!足元には、ご注意を。

*1:原題は、Irrational Man

*2:演じるのは、ジェイミー・ブラックリー

*3:1905~1980年

*4:フランス語で、L' homme est condamné à être libre.

*5:engagement(仏)

*6:THE IN CROWD - ラムゼイ・ルイス・トリオ

*7:2014年、原題はBirdman or (The Unexpected Virtue of Ignorance)