その人柄に触れて ―『手をつないでかえろうよ ~シャングリラの向こうで~』を見て―

P🐖…peanut

 今回は、昨年2015年5月28日、54歳という若さでお亡くなりになった、俳優の今井雅之さん企画・脚本作品の映画『手をつないでかえろうよ ~シャングリラの向こうで~』について。

 私にとって、今井さんと言えば、やっぱり、中居正広主演味いちもんめの「『登美幸』の横山さん」のイメージ。『味いちもんめ』というドラマは、料理人の世界を描いた話にも拘わらず、信じられないくらい、血の気の多い作品だったっけ。板前達が、例え、そこが調理場であってもお構いなしと言った感じで、殴り合ったり、投げ飛ばし合ったり。毎度々々、とても演技とは思えない程のガチ過ぎる激しい喧嘩シーンも見所の一つであるドラマだ。主演の若き日の中居くんは今よりも随分と痩せていたから、喧嘩相手の俳優さん達も余程投げ飛ばし甲斐があるのか?中居くん演じる伊橋悟は喧嘩のシーンの度に、思いっ切りすっ飛ばされたり振り回されたり。それでも懲りずに立ち向かっていく伊橋が、またいいんだよね。そんな風に、キャスト達が文字通り体当たりし合っていたドラマだから、面白いエピソードも数知れない。今井さんも、撮影期間中に起きた様々なエピソードをバラエティー番組に出演すると、よく披露して下さってたことが懐かしい。今まで2人からドラマ共演中の色んなエピソードを何度聞いただろう?どの話も何回聞いても、毎回同じように楽しかったなあ。中でも一番有名なエピソードは、犬猿の仲だった中居くんと今井さんが仲良くなった話だよね、やっぱり。

 ここ数年は、『味いちもんめ』がスペシャルで復活したことを切っ掛けに、バラエティー番組で中居くんと今井さんが共演する機会も再び増えて、2人から『味いちもんめ』に纏わる話を聞ける機会も同時に多くなっていて、それがとても見ていて楽しくて嬉しかった。

 それなのに、昨年、今井さんが突然旅立たれてしまって、ただただ本当に驚いたし、悲しかった。まだまだ、これからも2人の共演が見られると思っていたのにね。とても残念。

 そういえば、『ナカイの窓』で、ドッキリだったけど、今井さんと中居くんが向かい合って至近距離で喧嘩を始めた時、まるで『味いち』名物喧嘩シーンの再現を見れたようで凄くドキドキしてワクワクしたな。今井さん、ありがとう。

 でも結局のところ、私が知っているのは『味いちもんめ』やバラエティー番組での今井さんだけ。作り手としての今井さんのことは全く知らない。だから今回、今井さんが作る映画が一体どんなものなのか、って興味津々だった。

 しかも、この映画には、あの伊橋悟が、いや、中居くんが友情出演するらしい。そうと分かったら、尚更。見逃せない。

R🐖…ramen

 主演は川平慈英さん。川平さんが演じるのは、知的障害のある尊真人という人物。物語は、現在の真人の伊勢神宮への旅と、過去の真人のそれまで歩んできた人生が交錯しながら、進んで行く。

 組幹部・尊義男*1の息子に生まれた真人の夢は、トラックの運転手になることだった。父も息子の夢を応援していたが、ある時、父が行方を晦ませたことを切っ掛けに、真人は父の姿を追うように組員としての道を歩み始め、真人は事件に巻き込まれてしまうことになる。そして年月が過ぎて。現在50歳になった真人は組員となり、真面目に働いていた。が、ある日突然、仕事も辞め、一人、伊勢神宮へと車を走らせる。それは、亡き妻・咲楽*2と交わした約束を果たすための一人旅だった。しかし可笑しなことに、一人きりの筈の旅が突如、二人旅になってしまう。真人の運転する車に、武内麗子*3と名乗る女性が乗り込んで来たからだった。真人は、伊勢神宮までの道中で起こる様々な出来事や、麗子との会話を通じて、これまでの人生を振り返って行く。

 この麗子との不思議な出会いが、咲楽が生前、真人に言い残した言葉の謎を解き明かす鍵となり、真人は未来に向かって歩き始めていく。 

 これが、映画の大体のあらまし。

N🐖…natto

 とても温かくて、そして切ない映画だった。出会いと別れがテーマの映画なんだと思う。ホント泣けちゃう映画。一つ一つのシーンが一々心に響いて、書ききれないくらい。

 そんな心に響き過ぎちゃうシーンが沢山ある中でも、私が、特に好きだったのは、修二の父である平岡修一郎*4が登場するシーンの数々。自動車教習所の教官をしている修一郎は、真人にいつも優しく声をかけてくれて、見守っていてくれて、そして、導いてくれる人。しかも自分の時間を割いてまで、個人的に、真人に運転を教えてくれる人。こんな人がいたらいいな、って思ってしまうような懐の大きい人。そして、修一郎が登場するシーンの中で一番印象に残ったのは、じっと涙を堪えている修一郎を真人が慰めるというシーン。修一郎がいつもいつも真人の背中をポンポンと叩いて慰めてくれたように、今度は真人が「ポンポン」と修一郎を慰め返す。真人は、特に言葉をかけたりはせずに、「ポンポン」ってするだけ。でも、その仕草の中には、色んな気持ちが籠められているように見えて、心が通い合ってるようで、凄くいいシーンなんだ。真人からの「ポンポン」を受け取った修一郎の表情に、泣けてしまう。

 こんな風に、全体的に温かく切ない雰囲気の流れる本作の中で、空気がガラッと変わるのが、蘇我皇慈*5が登場するシーン。蘇我皇慈は、真人や真人の周囲の人間の人生を一変させてしまうことになる人物で、蘇我のシーンは、温度が変わる気さえした。蘇我を演じた中居くんは、バラエティー番組などでも、その場の空気をコントロールすることがとても上手い人だけど、そのコントロール力は、この映画の中でも遺憾無く発揮されていた。

 蘇我は、声なんか発しなくても、そのゆったりとした物腰や目の動きで、静かに場をコントロールしてしまう。わざわざ威圧感を出さなくても、そこにいるだけで只者ではないことが一目で分かるような存在感のある人物。漸く蘇我が口を開くと、その声は、とても抑制されたトーンでありながら、人をゾッとさせる恐ろしさも含んでいる声色で。「これはバラエティーでの中居くんと全く違う声音だ!」って感動してしまった。

 また、それ程までに落ち着き払った蘇我が、感情を爆発させるシーンも見事の一言。静から動への振り幅がとても素晴らしい。

 べた褒め過ぎ?でも、本当に、凄くいいから!中居くんが演じる蘇我皇慈は、その漂う空気感からしてもう凄味が合って、とっても良かったと思う。本当の本当にね!

D🐖…donguri

 『手をつないでかえろうよ ~シャングリラの向こうで~』は、少し男臭い世界観に、優しさと脆さが相まっていて…、そして沢山の愛情がいっぱい詰まってる映画で、「今井さんって、こんな方だったのかな…」と、映画を通じて、その人柄に少しだけ触れられたような気がする作品だった。

 今井さんからの思いと、今井さんへの思いが溢れている作品のように、私には感じられた。

 これは、2016年5月21日に放送された『中居正広のSome girl' SMAP』で中居くん自らが語ってくれたことなのだけれど。実際、この映画に関わった人は、出演者は勿論、スタッフの方も皆、今井さんと直接の繋がりのある方ばかりだったんだとか。カメラさんと照明さん、音声さん以外は、タイムキーパーさんもADさんも警備さんも、日頃は役者さんをやっている人達が今回初めてスタッフをしていたんだそう。だからスタッフの数も全然足りない中で撮影された、手作り感溢れる映画で、中居くん自身も「凄く勉強になった」らしい。そして、プロデューサーには、中居くんと古くから所縁のある、俳優の野村祐人さん。現場で久しぶりの再会を果たすと、すぐに昔に戻ったようになったんだとか。(そういえば、祐人さん、劇中にチラッと出てたね。)

 はっきり言って、そんなスタッフも少ない中で撮影しただなんてことを、見る側に全く感じさせない映画だった。見た後に感じることは、なんとも心地よい感動で気持ちが満たされて、ただストレートに、「素敵な映画だったなあ」ってことだけ。

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 誰かと出会えば、必ずいつか別れは来るものだから。その別れが辛過ぎて「神様ひどい」って、時には詰りたくなったりするかもしれないけれど、別れが怖いからって出会うことを恐れちゃいけないのかも、なんてことを、しみじみと考えてしまった。ある日突然、真人が麗子と出会ったようにね?そうは言っても…、やっぱり別れは辛い…よね?麗子の台詞にもあったけど、いた人が消えちゃうなんてね?なんで消えちゃうんだろうね。

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…🐖🐖🐖🐖豚さん、桃源郷はどこにあるの?

*1:演じるのは、板尾創路さん。

*2:演じるのは、七海さん。

*3:演じるのは、すみれさん。

*4:演じるのは、岡安泰樹さん。

*5:演じるのは、中居正広さん。