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- comme l'ambre -

2015年12月1日開設

情報の大きな渦の中で ―『ソークト・イン・ブリーチ ~カート・コバーン 死の疑惑~』を見て―

映画

今回は『ソークト・イン・ブリーチ ~カート・コバーン 死の疑惑~』について、書いてみます。

ソークト・イン・ブリーチ ~カート・コバーン 死の疑惑~ [DVD]

ニルヴァーナのボーカル&ギタリストで、アイコンだったカート・コバーンが亡くなったのは1994年のことでした。

私は当時中学生でしたが、彼が亡くなったという報道に、正直言ってあまり触れた記憶がありません。

今ほどネット環境が整っていなかったからでしょうか、それとも、単に私自身がオルタナティブ系を聴いていなかったからでしょうか。

そんなオルタナティブ系に疎い私でも、ニルヴァーナのあの有名なロゴは、当時から知っていたように思います。やっぱりかなり人気があって、周りにロゴステッカーを貼ってる人がいたような気がします。

 

映画『ソークト・イン・ブリーチ ~カート・コバーン 死の疑惑~』では、1994年のカート・コバーンの≪自殺≫と見なされた死について、実際は自殺ではなかったんじゃないかという視点から、改めて、事件を検証していく映画です。

シネマスコープです。

映画は、当時のニュース映像と、再現映像を交えながら進んでいきます。

それに加えて、様々な関係者・専門家のインタビューで、カート・コバーンの死の真相に迫っていきます。カート・コバーンを子供の頃から知る地元の人々や、検死・薬学・筆跡鑑定のプロといった各分野の専門家等、沢山の人々によって証言が積み重ねられていきます。

そして、この映画の中心人物となるのは、或る一人の私立探偵トム・グラントです。彼は1994年当時、カート・コバーンの妻コートニー・ラブに「行方不明の夫を探して欲しい」と雇われた人物なのです。

映画の冒頭、トム・グラントは毅然たる口調で、次のような内容を話します。

依頼人の立場よりも真相究明に重きを置いている、それ故、私に依頼したことを後悔する依頼人もいるだろう、と。

これが、ただのはったりではないことが映画を見るとよく解ります。

その言葉を裏付けるように、膨大な量の「カセットテープ」の存在が明かされるからです。

なんと、トム・グラントは、コートニー・ラブに依頼を受けてからずっと、事件に関わると思われるあらゆること、つまり、関係者との会話・行動の一部始終を何から何まで全て記録・録音していたのです。それには、依頼人であるコートニー・ラブとの会話も含まれています。

映画では、その実際のテープを流しながら、それに合わせた再現映像が流れるという形がとられています。

それはそれは、ものすごい生々しさでした。

私は文字通り、息を呑んで、鑑賞していました。カセットテープに録音された肉声に耳を欹てて、食い入るように再現映像を見つめていました。

 

当時、行方不明のカート・コバーンが遺体となって発見されると、あまりにも簡単に自殺として片付けられてしまったそうです。通常ではあり得ないような決め付けで初動捜査は行われたと、トム・グラントは話します。

映画では、早々に自殺とされてしまった初動捜査以外の原因についても、指摘しています。

一つは、カート・コバーンには自殺願望があると思われていたこと。

そしてもう一つは、そのイメージに合わせて、メディアによって都合のいい自殺ストーリーが作られていったということ。

カート・コバーンには自殺願望があったのだというイメージを守るかのように、報道が自殺の方向へと一気に舵を切るともう誰にも止めようがなかったのでしょう。

例え、遺体の不可解な点が指摘されたとしても、将又、事件現場の状況を捻じ曲げたとしても、自殺という結論へまっしぐらに向かっていったようです。

まるで情報の渦の中に真相は流されるかのように、いとも簡単に自殺と結論付けられ、残念ながら、間もなく火葬されてしまったのです。

 

この映画は、勿論自殺と言う結論に反論する映画ですから、カート・コバーンの遺体の不可解な点について、様々な分野の専門家達が一つ一つ検証していきます。

また、カート・コバーンを直接よく知る友人・知人からは、決して自殺を選ぶような人物ではなかったことが語られます。

 

反論内容はとても論理的で、確かに自殺と結論付けるには早計だったんじゃないかと思うに足る証拠が十分に提示されます。

しかしながら、もう事件から20年余りが過ぎています。今になってやっと、色々な事実が語られたのかと思うと、本当にやりきれない気持ちになります。こんなに時間が経たなければ、反論できないものなのでしょうか。骨が折れますね。

 

トム・グラントは、なぜ自分がここまで、カート・コバーンの事件に執念を燃やすのか、その理由をこのように語っています。

アイコンだったカート・コバーンの≪自殺≫と見なされた死は、当時の多くの若者に影響を与えてしまった。不幸なことに、分かっているだけでも60人強の子供達が後追い自殺をした、これ以上子供達を犠牲にしたくはない、カート・コバーンは自殺をするような人物ではないのだ、と証明したいという強い思いがあるからなのだ、と。

この言葉に、とても胸を打たれました。

カート・コバーンの死が、ストーリー性を持って世間に報道されてしまったことで、影響を受けやすい若者達が犠牲になってしまったとしたら、すごく悲しいことだと思います。しかも、もし彼の死が自殺でなかったと今になって判明したら?…後を追ってしまった命はどうなるんでしょう。本当に、取り返しのつかないことです。

 

『ソークト・イン・ブリーチ ~カート・コバーン 死の疑惑~』は、初動捜査問題のみならず、報道のあり方や、スターが与えるファンへの影響等について、とても色々なことを考えさせられる映画です。それに、関係者の肉声が録音された貴重なカセットテープには一見の価値があります、ハラハラします。怖いです。インパクトのある映画でした。

 

カート・コバーン27歳なんて若さで亡くなってしまって本当に残念ですね。

それにしても、なぜ多くのロックスター達は27歳で旅立ってしまうのでしょうね。