- comme l'ambre -

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デザートはクレマ・カタラナ ―『創造と神秘のサグラダ・ファミリア / Sagrada: El misteri de la creació 』を見て―

サグラダ・ファミリアへの誘い

 年末年始だって一度くらいは映画館へ行かなくてはっ!ということで…。何か丁度いい上映作品はないものか、と検索していると、『創造と神秘のサグラダ・ファミリア*1という映画が上映されているのを知った。

 はっきり言って、私は、サグラダ・ファミリアについて、あまり知らない。

 「サグラダ・ファミリアとは、ガウディによる、スペインの未完の歴史的建造物で、4本の塔が横に連なって聳え立っている。」

 これが正しいかどうかは別として、サグラダ・ファミリアについての、私の認識は、この程度。そして、私の頭の中にあるサグラダ・ファミリアは、こんなイメージ。土台から、ニョキニョキニョキニョキと、4本の塔が…こーんな感じ。

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 ね?こんな感じ。(…にしても、下手な絵だな(;・∀・)!…ぅぉーい!)

 ドキュメンタリー映画『創造と神秘のサグラダ・ファミリアは、その程度の認識しかない私でも、とても楽しめて、且つ、勉強になる映画だった。

 何しろ、この映画の導入部分、サグラダ・ファミリアへの誘い(いざない)方がとても良かったからだ。それは、バルセロナの喧騒とサグラダ・ファミリアの静寂を際立たせるような映像で、そして、サグラダ・ファミリアの世界へと導く一人の女性*2が、サグラダ・ファミリアの中にまるで溶け込んで同化してしまうかのような不思議な映像だった。また、劇中で演奏される、バッハ『ミサ曲ロ短調も、サグラダ・ファミリアの世界観に、更に夢中させてくれた。

 映画を見てみると、私のサグラダ・ファミリアに関する浅い認識は、予想通り、色々と間違っていたことも、次々と判明したのだった。 

サグラダ・ファミリアとは?

 サグラダ・ファミリアとは、直訳すると【sagrado(聖なる)】、【familia(家族)】で「聖家族」を意味するのだが、建造物としては「聖家族贖罪教会*3という意味なんだとか。つまり、サグラダ・ファミリア教会だった、という訳。

 そして、カトリック団体からの依頼を受け、建築に当たったのが、アントニオ・ガウディだったのだ。しかし実は、ガウディは、サグラダ・ファミリア2代目建築家で、最初に依頼を受けた建築家はと言うと、カトリック団体側と上手く行かずに、すぐに辞退する運びになったらしい。

4本の塔の正体とは? 

 私の頭の中にあった、サグラダ・ファミリア像。それは「横に連なって聳え立っている4本の塔」というイメージであったのは、先に述べた通りだが、実際は、かなり違っていた。

 確かに、「横に連なった4本の塔」はあるにはあるのだが、それはサグラダ・ファミリアの謂わば「門構」でしかなかったのだ。その門構え部分は、西欧建築で【façade(ファサード)】と呼ばれ、サクラダ・ファミリアは「栄光」「生誕」「受難」の3つのファサードを持つ建造物なのだ。但し、映画撮影時点では、「栄光のファサード」は未完である。(ファサードの詳細については、以下の引用を参照して頂きたい。)

ファサード(ファサード)とは - コトバンク

【façade】「元々は、建物の正面を意味するフランス語だが、各国語で広く使用されている建築用語。建物の〈顔〉として、重要な面であれば、背面・側面であってもファサードと呼ばれる」とのこと。

2016/01/10 13:01

 映画を見てみると、私の頭の中にあった、横に連なって聳え立つ4本の塔のイメージは、3つの内の「生誕のファサードと呼ばれる部分であることも分かった。ガウディ存命中に完成した唯一のファサードが、この「生誕のファサード」なのだ。

 私は、その4本の塔こそが、サグラダ・ファミリアの本体そのものである、とすっかり勘違いしていたのだが、それはサグラダ・ファミリアの一部分でしかなかったようだ。先ず、この点についての認識を改めることが出来ただけでも、この映画を見た価値があったというものだ。

これはMISPRIかMISTERIか?

 『創造と神秘のサグラダ・ファミリアのポスターを何とはなしに眺めていると、ふと原題の、"EL MISTERI DE LA CREACIÓ"との表記に少し引っかかる。「ん?これは何だろう?」と少し変な気がしたからだ。スペイン語ならば、"EL MISTERIO DE LA CREACIÓN"の筈、これはミスプリントなのだろうか?、と。

 でも、この些細な疑問も映画を見れば、ミスプリじゃないと、すぐに分かる。

 それは、映画の中で、サグラダ・ファミリアが、スペインの建造物であると言うよりも寧ろ、カタルーニャの建造物であることが、明確に説明されるからだ。考えてみれば、抑々、ガウディもカタルーニャ人であるし、当然と言えば当然なのかもしれないが。カタルーニャという地域は、スペインであってスペインでない。独立志向が高い気質を持つ土地柄であるそうだ。(以下は、カタルーニャ州独立に関するニュース記事をブクマしたものである。宜しければ、参照して頂きたい。)

スペイン・カタルーニャ州首相が退陣、新政権発足へ  | Reuters

2016年1月10日、「スペイン・カタルーニャ自治州で、州の独立を掲げる新政権が発足することになった」とのこと。

2016/01/12 18:55

 という訳で、つまり、ポスターの表記は、当然ミスプリではなく…、

スペイン語】misterio /【カタルーニャ語】misteri

スペイン語】creación/【カタルーニャ語】creació

 上記のように、スペイン語表記ではなく、カタルーニャ語表記になっていたのだ。

 このように、カタルーニャの人々の支柱として、カタルーニャの土地にどっしりと根付いているサグラダ・ファミリアなのだが、そんなサグラダ・ファミリアにも、厳しい現実、歴史があったようだ。驚くべきことに、諸手を挙げて受け入れられてきた、という訳でもなかったからだ。 

なぜ未完なのか? 

 長きにわたって未完状態のサグラダ・ファミリアは、来る2026年、漸く完成の日をむかえようとしている。それは、建築の障害となっていた、いくつかの問題が解決したからだ。

 その障害とは、「建設資金の不足」とスペイン内戦による「模型の喪失*4」で、前者は観光客の増加によって、後者は復元技術の進歩によって解決することができたのである。

 しかし、それらの障害を除いても未だ尚、完成までには困難な道程だ。

 先ず一つには、建設反対運動が挙げられる。この反対運動は、ガウディの死後、サグラダ・ファミリアをガウディの作品として保存するのか、それとも教会としての役割を果たすため建設を続けるのかという問題で、作品として保護すべきと考えた人々の運動のことを指している。この反対運動には、多くの著名人や知識人が名を連ね、反対派により、ファサードに隣接する土地を買い占められて宅地化されてしまう等、これは今も進行中の懸案事項なのだ。映画で、サグラダ・ファミリアを空から俯瞰で撮った映像が流れた時、サグラダ・ファミリアと住宅のあまりの近さに、私は驚愕した。

 加えてもう一つ、都市開発という問題もある。サグラダ・ファミリアの真下に高速鉄道を通す為のトンネル開通工事が行われており、その映像は、なかなか衝撃的なものだった。歴史的建造物のほんの目と鼻の先、正に近接した場所での大規模工事は、サグラダ・ファミリアに少なからぬ振動を与えるのは想像に難くない。歴史的建造物と街の再開発のための公共事業、その振動はサクラダ・ファミリアにはなかなか堪えるのでは、と心配になってしまう。(以下は、関連するニュース記事をブクマしたものである、宜しければ、参考までに。)

asahi.com:サグラダ・ファミリア崩落の危険? 地下に鉄道トンネル - 文化一般 - 文化・芸能

サグラダ・ファミリアの真下を通る高速鉄道のトンネル計画発表により、振動で崩壊に繋がる可能性が指摘された。それと同時に、政府が120年以上に渡り無許可建築を黙認してきたことも明らかとなった」との報道。

2016/01/12 21:26

 それにしても、サグラダ・ファミリアが完成に至るまでの、こうした様々な困難な道程を、ガウディはとっくに予見していたのだろうか、彼はこんな言葉を残したのだと言う。

 「神は急いでおられない」

 建築の依頼を受けた建築家の言葉としては、少し意外で、些か不思議な気もしてしまう。恰も完成しなくてもいいかのように聞こえてしまうからだ。ガウディは一体どんな思いで、今のサグラダ・ファミリアを見守っているのだろう。2026年なんて、とてもとても、まだまだ早過ぎると思っているだろうか? 

Crema Catalana!! 

 映画を見て、ほんの少しだけだが、サグラダ・ファミリアについて詳しくなれた気がしている。

 「サグラダ・ファミリアとは、2代目建築家として任を受けたアントニオ・ガウディによって設計された、カタルーニャにある2026年完成予定の、3つのファサードを持つ歴史的建造物」だったことを、私は知ることが出来たのだから。

 映画を見た後、こんな出来事があった。それは、ほんのちょっとしたことなのだが…。

 私は「カタルーニャについて、今まで全く知らなかったんだなあ…」なんてことを一人考えながら、冷蔵庫からクレマ・カタラナを取り出して食べ始めた時のこと。頭の中で「え?カタラナ?ぁあー!」と声に出してしまう程、私はビックリしてしまったのだった。一体、私は何に驚いたのか、勘のいい人ならもうお気付きだろうか。要は、今の今まで、クレマ・カタラナを何度食べても、私は一切、何も気付きもしなかったのだが、カタラナは【catalànカタルーニャの)】だから、これって、つまりカタルーニャのデザートだったのだ…。カタルーニャのデザートにすっかり慣れ親しんでいたことに全然気付いていなかった自分に驚いてしまったのだ。

 「知らない」って本当に勿体ない。これ程までに身近に情報が転がっていても、知らないから全く気付きもせず、その情報を取り逃がしてしまっているからだ。

 この映画を見て以来、「クレマ・カタレナ」の件と同じように、「渋谷再開発計画2027年」という、今まで何気なく見聞きしていたことについても、「サグラダ・ファミリア完成の翌年だなあ」なんて以前とは全く違う感想を持った。

 やはり知っていることが増えると、世界が広がって、何とも楽しいものだ。

*1:2012年、原題はSagrada: El misteri de la creació

*2:演じるのは、Anna Huber

*3:El Temple Expiatori de la Sagrada Familia

*4:ガウディは設計図よりも模型に重きを置いていた。